女子大生起業家としてforucafeを創業。コロナ危機も乗り越えた平井幸奈氏が高校生に語る「愛されるブランドづくり」~サイル学院高等部の授業レポート【第5回・前半】~
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2022年10月18日、サイル学院高等部の起業家・事業家による特別授業が開催されました。定期的に行われる特別授業、名称は「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ」。学校内では「イマキミ」と呼ばれています。
第5回目のゲストは、2013年に日本初のブリュレフレンチトースト専門店「forucafe」(フォルカフェ)をオープンさせ、女子大生起業家として注目された平井幸奈さん。現在は株式会社フォルスタイルの代表取締役としてforucafeを含めたカフェ5店舗の運営や自社ブランドグラノーラのオンライン販売、ドラフトコーヒー事業、ケータリング事業などを幅広く展開しています。
20代で起業し、黒字倒産やコロナによる営業自粛など数々の危機にぶつかりながらも、事業を継続し、今年11月にはラグジュアリーブランド「FENDI」とコラボした「FENDI CAFFE by foru(フェンディ カフェ バイ フォル)」をオープンさせるなど、今注目の若手起業家の一人である平井幸奈さん。そんな平井さんからサイルに通う高校生(以下、サイル生)にどのようなメッセージが語られたのでしょうか。イマキミレポートの前編では、平井幸奈さんと学院長松下の対談をお届けします。
勉強や友達とのコミュニケーション、趣味や部活動など。日々一生懸命に過ごしている高校生のみなさんは、なかなか未来のことを考える時間はとれないかもしれません。「いまを生きている」みなさんが、少し先の未来に目を向けるために。ビジネスの先輩、人生の先輩でもあるゲストからさまざまなことを学び、自分の未来へ一歩踏み出す、行動するきっかけをつかんでほしい。「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ(通称イマキミ)」には、そんな思いが込められています。
過去のイマキミレポートを読む
第1回:グロービス学び放題事業責任者の鳥潟さんによる授業
第2回:ピープルポート株式会社代表の青山さんによる授業
第3回:シニフィアン株式会社代表の朝倉さんによる授業
第4回:株式会社Funda代表の大手町のランダムウォーカーさんによる授業
今回のゲストは、forucafe創業者 平井幸奈さん
株式会社フォルスタイル代表取締役 平井幸奈さん
1992年生まれ、広島県出身。早稲田大学政治経済学部卒。フレンチレストランのキッチンでのアルバイトをきっかけに料理の世界に魅了される。2012年8月より2カ月間、単身オーストラリアのシドニーに渡り billsサリーヒルズ店、ダーリンハースト店で修業。帰国後、料理教室・ケータリング・単発のカフェプロデュースなどを手がける。2013年9月大学3年時にforucafeをオープンさせ、現在は都内で5店舗を運営。FORU GRANOLA(フォルグラノーラ)、ドラフトコーヒーFORU COFFEE(フォルコーヒー)、FORU CATERING(フォルケータリング)などを次々とスタート。「ドラフトコーヒー」の名付け親でもある。早稲田大学国際文学館・村上春樹ライブラリーのカフェOrange Catのアドバイザーを務める。 |
松下 今回は「ブランドづくり」をテーマに、平井さんにお話を伺います。平井さんは大学3年生のときに、日本初のブリュレフレンチトースト専門店「forucafe(フォルカフェ)」をオープンさせました。そもそもなぜ、“食”の領域で起業しようと考えたんですか。
平井 直接的なきっかけは、大学時代のアルバイトでした。とあるフレンチレストランのキッチンで働くことになって。とても厳しい職場だったんですが、自分がつくった料理を人にふるまい、喜んでもらえることの喜びを知ったんです。お客さんから「おいしかったよ!」と声をかけてもらえるって、こんなに嬉しいんだって。
もともと食べることが好きで、料理も好き。好きなことで収入を得られるなら、まさに天職じゃない?と。現場での仕事を通して「食は人と人をつなぐんだな」とか、「食を通して変えられる未来がある」と感じて、どんどん夢が膨らんでいきました。
松下 食べることや料理をすることが好きという気持ちからスタートしたんですね。起業したい、経営者になりたいという思いは、それほど強くはなかったのでしょうか?
平井 大学の授業で起業家の方の話を聞く機会があり、起業を身近に感じたことも影響している気がします。
とても成功されている経営者の方が、「僕も最初はコピー機一台でさえどこで買えばいいか、どうつなげばいいかわからなかった」とおっしゃっていて。それまで起業はものすごくハードルの高いこと、遠い世界の話だと感じていましたが、みなさん「手探りで始めて、今があるんだなぁ」と知ったんです。
自分も、小さくとも一歩をふみだせば起業できるんじゃないか? 好きなことで起業する選択肢もあるのかな?と思ったのを覚えています。
松下 少しさかのぼって、高校時代はどんな学生でしたか?
平井 幼い頃からミュージカルやダンスが好きで、その道に進むことを考えていた時期もありました。だから、自分でダンスサークルを立ち上げて。広島のいわゆる進学校で、まわりは勉強する子ばかりだったので、別の意味で目立っていたかもしれません。たとえ他の人と違う道でも、自分の好きなことに全力で取り組む快感は、この時から味わっていた気がします。
とはいえ、ダンスを仕事にするのは現実的ではないとも思っていました。あの頃は、「将来の夢は?」と聞かれてもうまく答えられませんでしたね。「丸の内OLになって、オフィス街のビル風に吹かれながらヒールをコツコツとならして歩きたい」とか言ってましたから(笑)。
目標がなく、漠然とした不安がある日々。それでも「田舎から出て広い世界を見てみたい」という気持ちは強かった。だから大学進学を機に、東京に出てきたんです。
ブランドコンセプトに込めた想い
松下 ここからは起業後の話を伺っていきます。社名や店名をはじめ展開するブランドの頭に”FORU”という言葉が付いています。どんな意味が込められているのでしょうか。
平井 “FORU”はFOR U=for you。つまり、「あなたのための」という想いが込められています。
開店当初からずっと私たちが大切にしているのは、目の前の人に喜んでもらうこと。自分の料理を食べてくれた人がおいしいと言ってくれる。その喜びが私の原点ですし、原動力でもあります。
忘れられないのは、オーストラリアでのワーキングホリデーでの出来事。ドイツ人やイギリス人、アメリカ人などさまざまな国籍の子たちとルームメイトになって、最初は自己紹介をしたり、仲良く話せていたんです。
でも英語がうまくない私は、途中からみんなの話についていけなくなった。会話の輪に入れず、だんだん誰も、私の目を見てくれなくなってすごく悔しい思いをしました。
そんな関係性の中で、私がみんなの夕食をつくったんです。私がつくった料理を口にした途端、みんなが笑顔になって「おいしい!おいしい!」と言ってくれて。みんなに喜んでもらえたのが、私自身、とても嬉しかった。「おいしい食事は、言葉の壁を越えるんだ」と感じましたし、そのとき味わった嬉しさが、今も私の中に残っていて原動力になっています。
たとえ非効率でも、目の前のお客様に喜んでもらうことを優先
松下 あらためて「FORUブランド」を通じて実現したいことについて聞かせてください。
平井 フォルスタイルという社名が表すように「食を起点にライフスタイルを彩る」ブランドでありたいと思っています。忙しい日々を彩る、”小さな幸せ” をお届けできたら幸せだなぁと。
現在4店舗ある「forucafe」では、それぞれのお店で提供している商品が異なります。たとえばオフィスに入っているカフェのお客様はビジネスパーソン。仕事の合間にフォークとナイフでフレンチトーストを食べるのはミスマッチなので、甘いものでも、もっと手軽に食べられるラインナップに変えたりしているんです。
効率重視ではなく、現場で働いているスタッフたちの目線で、目の前にいるお客様にいかに喜んでもらえるかを考えるようにしています。
ブランドって時代と共に変わっていく必要があると、私は思っていて。ずっと同じものを提供していると、私たち自身も飽きがきてしまうし、情報感度の高いお客様と感覚が合わなくなってしまう。
昔だったら年輩の方に親しまれていたレトロ喫茶が、今では若者に「かっこいい」「かわいい」と言われているみたいに、流行りはどんどん変化していくものですから。流行に乗りすぎず、でも置いていかれず。常に洗練されたメニューを考え、提供し続けることが大事だと考えています。
松下 お客様からFORUブランドにこんなことを期待してほしい、ということはありますか。
平井 そうですね。社内では「パワースポットとペースメーカーになりたいね」とよく言っています。
通勤前にちょっと立ち寄ってコーヒーを飲んで、“今日も一日、頑張ろう!”とスイッチを入れられる。フォルグラノーラを朝食べるのを楽しみに起きることで忙しない毎日のリズムが心地よく整う。そんなブランドでありたいと。
「FOR U(あなたのため)」は、あくまで私たち目線の言葉なので、「パワースポット」や「ペースぺーカー」といったお客様目線の言葉を使うことで、より解像度を高めて商品開発や日々の接客に活かせればと考えています。
成功する起業家が持つ、三つの人格
松下 とてもきめ細かにブランドをつくられているんだとわかりました。一方で、会社としては利益を生み出していかなければなりませんよね。ブランドづくりと、利益を出すことの両立は大変だったのではないですか。
平井 正直、起業1年目はカツカツでしたし、集客に苦労した時期や、借金を抱えて黒字倒産しそうになったこともありました。ようやく軌道に乗ったと思ったのは3年目くらいでしょうか。
起業当時は「女子大生起業家」「クラウドファンディングへの挑戦」「ブリュレフレンチトースト専門店」などメディアから注目されやすい要素があり、テレビや雑誌をはじめ大手メディアにたくさん取り上げてもらえたんです。
それが売上につながっていった感覚があります。ただ、一過性のブームで終わらず、いかに定期的に足を運んでもらえるお店をつくれるか、ブランドづくりができるか。それが経営者の手腕なのだと思います。
平井 飲食経営には三つの人格が必要だと言われていて。
一つ目は「職人」。いい料理、いい商品を生み出せる能力ですね。二つ目は「起業家」。つまり経営を舵取りする能力です。三つ目は「管理者」。帳簿をつけたり、お金の管理をする能力。この三つのいずれかが欠けてもお店はうまくいかないと聞きました。
とくに二つ目・三つ目は、もともと身につけていたものではなかったので、独学で勉強しながら取り組みました。
松下 起業家や管理者としては手探りで進めていったわけですね。
平井 はい、失敗もたくさんしました。私は料理が好きという想いでこの事業をスタートさせたので、開店当初は、私ともう一人の調理師免許を持ったスタッフしかフレンチトーストを焼けなかったんです。
素人には任せられないし、やらせないほうがいいと思っていました。でも、そのスタッフが体調を崩したりすると、当然ながら私一人に負担がのしかかります。
学校もあるし、閉店後には帳簿をつけなくちゃいけないし、もうめちゃくちゃな生活を送っていて。好きで始めた事業だけど、このままだと、私はこの事業の奴隷になってしまうと気づきました。
そこで未経験からでもおいしいフレンチトーストを焼けるようにメニューをつくりなおし、ゼロからマニュアル化して、きちんと利益を出せる体制をつくっていきました。その方向転換ができたことで、私自身にも時間と心の余裕が生まれ、新しい事業について考えたり、管理体制を強化したりすることができるようになっていったんです。
コロナ禍での突然の営業停止、どう乗り越えたか
松下 起業してからの約10年を振り返って、最も大変だったことは何ですか。その苦難にどのように向き合い、乗り越えたかについて聞かせてください。
平井 この10年で一番つらかったのは、新型コロナウイルス感染症の流行ですね。緊急事態宣言が出て、当時運営していた3店舗のうち2店舗が施設側の要請で「明日から営業を停止してください」と突然言われたんです。
明日から店を開けられない。売上がゼロになる。従業員を抱えて、どうしたらいいのかと途方に暮れました。当時は、国からの助成金がどうなるのかも決まっていなくて、本当に「どうしよう、どうしよう」と呪文のように唱えているような状態で。
当時私は妊娠していて、つわりもあったのですが、もうそれどころじゃないですよね。銀行をまわってキャッシュを確保して。申請できる助成金の情報を聞いてまわって、資料をあつめて。
とくに最初の3カ月は、本当にきつかったです。飲食の事業をしているのに、現場にはいられなくて、たくさんの書類を抱えて、いろんなところを歩き回って。
松下 もう店をやめてしまおうという気持ちにはなりませんでしたか。
平井 店を閉じる選択肢も、一瞬頭をよぎりました。でも、一緒に乗り越えようとしてくれる仲間がいましたし、「再開を楽しみにしているよ」「一緒に何ができるか考えるね」とあたたかい言葉をかけてくださるお客様もたくさんいて。
何より、この事業は私にとって生きがいでもあるので、続けていきたかった。そのためにできることは全力でやろうと腹を決めました。
スタッフの雇用維持を目的に、2020年4月からクラウドファンディングを行い、若手クリエイターが考案したレモンケーキ「FORU LEMON」を販売しました。
今も試行錯誤の過程ではありますが、熱意を持ってすばやく動いたことで、この苦難を乗り越えられたと感じています。
平井さんのお話を、サイル生はメモを取りながら真剣な表情で聞いていました。イマキミ授業レポート後編では、サイル生との質疑応答の様子をお届けいたします。
(デザイン:山本 香織、文:猪俣 奈央子)
この記事を書いた人
フリーライター
大学卒業後、転職メディアを運営するエン・ジャパン株式会社に入社し、中途採用広告のライター業に従事。最大20名のライターをマネジメントする管理職経験あり。2014年にフリーのインタビューライターとして独立。働き方・人材育成・マネジメント・組織開発・ダイバーシティ・女性の生き方・子育て・小児医療・ノンフィクションなどを得意ジャンルとしている。近年では著者に取材し、執筆協力を行うブックライターとしても活動中。
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