医療介護業界を変革するスタートアップ創業者 志水氏が高校生に語る「他人を気にせず、一歩前にふみだす力」~サイル学院高等部の授業レポート【第7回・前半】~
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2022年12月6日、サイル学院高等部の起業家・事業家による特別授業が開催されました。定期的に行われる特別授業、名称は「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ」。学校内では「イマキミ」と呼ばれています。
第7回目のゲストは、株式会社3Sunnyの創業者である志水文人さん。3Sunnyは、医療機関等の入退院調整業務を可能にする全国初のクラウドサービス「CAREBOOK(ケアブック)」を開発し、急成長しているスタートアップです。
志水さんは、小説家を目指して大学を中退。フリーター生活を経て、グリーやリクルートで活躍し、仲間と共に起業を果たすというユニークな経歴の持ち主。イマキミレポート前編では学院長の松下と対談し、起業の背景や「自己肯定感をどのように高めていくか」といったテーマで語り合いました。志水さんのメッセージはサイルに通う高校生(以下、サイル生)にどのように響いたのでしょうか。
勉強や友達とのコミュニケーション、趣味や部活動など。日々一生懸命に過ごしている高校生のみなさんは、なかなか未来のことを考える時間はとれないかもしれません。「いまを生きている」みなさんが、少し先の未来に目を向けるために。ビジネスの先輩、人生の先輩でもあるゲストからさまざまなことを学び、自分の未来へ一歩踏み出す、行動するきっかけをつかんでほしい。「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ(通称イマキミ)」には、そんな思いが込められています。
過去のイマキミレポートを読む
第1回:グロービス学び放題事業責任者の鳥潟さんによる授業
第2回:ピープルポート株式会社代表の青山さんによる授業
第3回:シニフィアン株式会社代表の朝倉さんによる授業
第4回:株式会社Funda代表の大手町のランダムウォーカーさんによる授業
第5回:株式会社フォルスタイル代表取締役 平井幸奈さんによる授業
第6回:ウニノミクス株式会社CEO 武田ブライアン剛さんによる授業
今回のゲストは、株式会社3Sunny創業者の志水文人さん
株式会社3Sunny創業者 志水文人さん
大阪府出身。2007年、早稲田大学理工学部を中退し小説家を目指す。2012年グリー株式会社に就職。ソーシャルゲームアプリのディレクターとして活躍後、2014年株式会社リクルートに転職しリクナビ領域の新規事業に従事。2016年、株式会社3Sunny(スリーサニー)創業。「医療介護のあらゆるシーンを、技術と仕組みで支え続ける」をミッションに、医療機関向け業務支援SaaS「CAREBOOK(ケアブック)」を開発し、2020年時点から約2年で利用病院数は10倍以上に拡大。東京・大阪においては全病院の3割ほどに利用されるサービスに成長させた。 |
松下 まずは、3Sunny(スリーサニー)が手がけている事業内容について教えてください。
志水 3Sunnyは、病院や介護施設向けのソフトウェア、いわゆるSassを提供している会社です。具体的には、入退院支援業務の負担軽減・効率化をサポートするクラウドサービス「CAREBOOK」を開発し、病院や介護施設に提供しています。現在、全国800以上の医療機関に導入していて、シェアは10%を超えました。東京・大阪においては約30%と高いシェアを誇っています。
松下 患者さんの「入退院」を支援するサービスというものがあることを、初めて知りました。
志水 日本で病院等を退院する患者さんは年間でのべ1500万人います。そのうちの6~7割が高齢患者さんです。松下さんや高校生のみなさんはイメージしにくいかもしれませんが、高齢者の中には治療を終えても、そのまま自宅に戻れない方がいます。たとえば入院中に足腰が弱くなって回復期リハビリ病院に転院したり、介護施設や老人ホームに入居したりする人もいます。
志水 さまざまな理由で、病院を起点に各医療介護施設間を患者さんが行き来しているのですが、実は、この入退院の調整がめちゃくちゃ大変なんです。
やりとりは電話やFAXがメイン。担当者は、複数の施設に「こんな患者さんがいます」と電話をかけ続けます。当然、電話がつながらないこともありますし、複数の施設に対して同じ説明を繰り返さなければなりません。電話ですから、聞き取りや伝達ミスも発生します。
また、入退院に必要な診療情報提供書等のやりとりはFAXで行われています。アナログなやり方なので、これがまた大きな業務負担です。
問題なのは、入退院の調整が煩雑で非効率であるがゆえに、患者さんが不利益を被ってしまうケースがあること。たとえば入退院手続きがスムーズであれば、もっと早くリハビリを始められた方や、訪問診療の手続きをしている最中に病状が悪化し、最後は自宅で家族との時間を過ごしたいという望みを叶えられなかった方もいます。
だからこそ入退院調整を正確に、できるだけスピーディーにしたいというのが私たちの願いなんです。もちろん、医療介護施設の人手不足を解消する一助になりたいとも思っています。
ビジネスに興味がなかった志水氏が「起業家が天職」だと思うワケ
松下 医療業界にはさまざまな課題がありますよね。なぜ、志水さんは「入退院支援」に注目したのでしょうか。
志水 私の前職はリクルートで就職関連領域に携わっていました。前々職はグリーでゲームアプリのディレクターをしていました。つまり医療や介護業界にはまったく関わりのない人間なんです。
ただ、「ITの力で劇的に業務効率が改善できる領域はないか?」と探していました。医療介護は、それに合致する領域。しかも入退院支援という業務があると。病院を起点に、こんなふうに人が動いているんだなぁと知ったんです。
この業界では、大学病院などの大病院→中小病院→介護施設という患者さんの流れがあります。大病院で入退院支援のサービスを使ってもらえたら、日本全国のすべての病院で活用される可能性があるんじゃないかと気づいて、ハッとしたんです。私は「自分がつくったものをすべてのユーザーに使ってもらいたい」と考えるタイプの人間で。入退院支援は、シェア100%を狙えるポテンシャルを秘めた領域としてとても魅力を感じました。
松下 そもそも、昔から起業したいと考えていたんですか?
志水 いえ、まったく。そもそも、ビジネスに興味がなかったんですよ。大学生のときに、小説家を目指していたくらいですから。就職するつもりもなくて、そのまま大学も中退していて。
松下 では、なぜ起業を?
志水 そうですね。「起業しか道がなかった」という感覚に近いかもしれません。小説を書いていたときもそうでしたが、自分自身でストーリーや世界観をつくりあげていくことが好きで。ゲームアプリでも、新規事業でも、何かをクリエイトする人生を歩みたいと思っていました。
ただ、それは「自分で考えたもの」に限られるんです。他人のアイデアを形にしようと思うと、極端にモチベーションが下がる。「絶対に、俺のアイデアのほうがいいでしょ?」って思ってしまう。会社勤めしていた時にも、上からおりてきた方針に文句ばっかり言っていました。自分だったら、私みたいな人間は雇いたくないですよ(笑)。
でも、あるとき会社のことをディスってばかりの自分が嫌になって。もともと、私が在籍していた会社は、めちゃくちゃ自由な環境なんです。それでもこんなに不平不満があるなら、どこに転職しても同じだと感じました。それなら、もう起業するしかないと。
起業する一年前に息子が生まれたことも大きく影響していると思います。息子に「かっこいいお父さん」だと思われたくなったんですよね。不平不満を抱えながら働いている父親と、リスクはあるけれど起業にチャレンジしている父親。純粋に、後者がかっこいいと。
実際に起業してみて、起業家は自分の天職だったと思います。基本的に小説家を目指していたときの思考と変わらない。魅力的な事業ストーリーを描き、自分のアイデアで世界を構築していく。私にとって、その表現の場がビジネスであり、起業だったということです。
「自己肯定感」は、今からでも高められる
松下 志水さんは、中高生時代は、どんな学生でしたか。
志水 普通に、明るい学生だったと思います。高校時代は付き合っていた彼女のことが好きすぎて、彼女のことばかり考えていましたね(笑)。
松下 青春ですね(笑)。
志水 それまでの人生において、なにかにハマるとか、熱量を注ぐことが一切なかったんですよ。でも生まれて初めて夢中になった彼女に振られてしまった。当時は浪人中だったんですが、相当落ち込んで、しばらくは暗黒期でした。
ただ、ふつふつと彼女を見返したいとか、もっといい男になりたいという気持ちが芽生えてきて。それで大学受験のハードルを上げたんです。しばらくすると模擬試験でA判定が出はじめて、「目標を掲げたら達成できるんだな」と手応えを感じました。
そのときからです。目標を高く設定するようになったのは。「やりたいことは何か?」と自分自身に問うようになりました。その結果、「最年少で芥川賞作家もいけるんちゃう?」という野望が出てきた(笑)。結局、小説の世界では箸にも棒にもかかりませんでしたけど、「やればできる」と思うようになってから、いろんなことが上手くまわりだした気がします。
松下 今の中高生を見ていて、やりたいことがある人や、自分に自信を持っている人のほうが少ないと思うんです。今の志水さんのお話は、「そういう中高生でも大丈夫だよ」というメッセージにもなりますよね。
志水 そうですね。全然、大丈夫です。私の場合、部活でも、バイトでも最初はまったく成果を出せないんです。でも、たとえまわりが上手くても、あきらめずにやり続けていると、いつの間にかレギュラーをとれていたり、真ん中より上位の位置にいる自分にふと気づく。
そういった行動の蓄積で、「もう少し上を目指してみようかな」と思えるようになっていく。そのときの自分を突き動かしているのは“好奇心”だと思います。「どうやったら、もっとうまくいくんだ?」と試行錯誤しているうちに、ちょっとずつ上達していくんですよね。
松下 なるほど。志水さんは、もともと自己肯定感が高いタイプだったんですか。
志水 どうなんでしょう? ただ、子どもの頃から母親には「あなたは天才だ」と言われつづけていました。たとえば絵を描くじゃないですか。幼稚園児が描く絵なんて下手なのに、「上手い!」「才能がある」といつも言ってくれて。年齢を重ねていくと「俺、たいしたことないな」って気づくんですが、母親が褒めつづけてくれたおかげで、もしかすると根っこの部分で自己肯定感が育っていたのかもしれないですね。
ただ、自己肯定感は後発的にも育めるんじゃないかと個人的には思っています。何かにチャレンジしたり、初めてのことにトライしたりするときは、「失敗したらどうしよう」「うまくいかなかったらイヤだな」という心のストッパーが誰しもあります。
ただ、そのときにちょっと動いてみる。自分の足で調べてみたり、小さく始めてみたり。すると、意外とうまくいったりすることがあるんです。10回に1回でもうまくいけば、少しずつ自己肯定感が醸成されていく。「俺はできる」という感覚が、さらに行動を促進させて、いいスパイラルに入っていけるんじゃないかなと思います。まずは怖くても、一歩前にふみ出してみることが大切ですよね。
志水さんのお話を、サイル生はメモを取りながら真剣な表情で聞いていました。イマキミ授業レポート後編では、サイル生との質疑応答の様子をお届けいたします。
(デザイン:山本 香織、文:猪俣 奈央子)
この記事を書いた人
フリーライター
大学卒業後、転職メディアを運営するエン・ジャパン株式会社に入社し、中途採用広告のライター業に従事。最大20名のライターをマネジメントする管理職経験あり。2014年にフリーのインタビューライターとして独立。働き方・人材育成・マネジメント・組織開発・ダイバーシティ・女性の生き方・子育て・小児医療・ノンフィクションなどを得意ジャンルとしている。近年では著者に取材し、執筆協力を行うブックライターとしても活動中。
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