深刻な環境問題を社会的・経済的なチャンスに変える!ウニノミクスCEOが高校生に語る「未来につながる循環型ビジネスモデル」~サイル学院高等部の授業レポート【第6回・前半】~
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2022年11月22日、サイル学院高等部の起業家・事業家による特別授業が開催されました。定期的に行われる特別授業、名称は「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ」。学校内では「イマキミ」と呼ばれています。
第6回目のゲストは、ウニノミクス株式会社の創立者でCEOの武田 ブライアン 剛さん。独自の畜養技術で、磯焼けの原因となるウニを地域の特産品に変え、海洋生態系の回復につなげる循環型ビジネスを手がけています。
イマキミレポート前編では、学院長の松下が、「環境問題の改善」と「利益をあげ成長していくこと」の両方を実現する秘訣を武田さんに聞きました。武田さんのメッセージは社会課題や環境問題に興味を持つ人も多い、サイルに通う高校生(以下、サイル生)にどのように響いたのでしょうか。
勉強や友達とのコミュニケーション、趣味や部活動など。日々一生懸命に過ごしている高校生のみなさんは、なかなか未来のことを考える時間はとれないかもしれません。「いまを生きている」みなさんが、少し先の未来に目を向けるために。ビジネスの先輩、人生の先輩でもあるゲストからさまざまなことを学び、自分の未来へ一歩踏み出す、行動するきっかけをつかんでほしい。「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ(通称イマキミ)」には、そんな思いが込められています。
過去のイマキミレポートを読む
第1回:グロービス学び放題事業責任者の鳥潟さんによる授業
第2回:ピープルポート株式会社代表の青山さんによる授業
第3回:シニフィアン株式会社代表の朝倉さんによる授業
第4回:株式会社Funda代表の大手町のランダムウォーカーさんによる授業
第5回:株式会社フォルスタイル代表取締役 平井幸奈さんによる授業
今回のゲストは、ウニノミクス株式会社の創立者 武田 ブライアン 剛さん
ウニノミクス株式会社 創立者・CEO 武田 ブライアン 剛さん
日本生まれ、カナダ育ち。クィーンズ大学にて経営学を学び、在学中に北米で抹茶を販売するMuzi Teaを設立。その後、ノルウェー大手水産会社のノルウェー・ペラジック(Norway Pelagic)社にてマーケティング・ダイレクターとして東アジア市場を担当。投資会社に身を転じてからはイノベーション戦略ダイレクターとして多くの革新的な事業の開発に携わる。ウニノミクスもその一つ。現在は文化、人々、貢献の機会に思いを馳せ、ウニノミクスを指揮している。座右の銘は「善を成す ‘do good’」。 |
松下 まずは、ウニノミクスが手がけている事業内容について教えてください。
武田 ウニノミクスは、環境改善を目的とした営利事業を手がけている会社です。
環境改善の中でも我々がフォーカスしているのが藻場(もば)。いわゆる海の森ですね。今、人間の手による捕食者の乱獲や海洋汚染、地球温暖化などを背景にウニが大量発生し、藻場を食べつくして海を砂漠化してしまう現象が世界中で起きています。
藻場は沿岸の一次生産の場。生態学的にも天然漁業上も、魚介類にとって不可欠な生息場です。ウニの大量発生で藻場が消滅してしまう「磯焼け」を解消するためには、定期的にウニを間引きし、個体数を管理することが必要なんですが、磯焼け地域に生息するウニは身入りが悪く、売り物になりませんから漁獲されません。
ウニノミクスでは、この藻場を食い荒らす痩せ細ったウニを短期間でおいしく畜養する技術を開発しました。我々のビジネスモデルとしては、まず厄介者のウニを除去し、当社の陸上養殖施設に移します。そこで6~12週間をかけて、空っぽのウニを高級水産品に変えていくのです。一方、ウニの除去に成功した海は、藻場が復活し、価値ある大事なエコシステムが機能するようになります。つまり我々の営利事業が成功すればするほど環境が良くなるという仕組みになっているわけです。
きっかけは、東日本大震災
松下 武田さんは環境問題の中でも、なぜ「海洋生態系の回復」に注目されたのでしょうか。
武田 理由としては二つあります。一つは、藻場が持つ価値が高いこと。ある調査によると、藻場は熱帯雨林との比較で30倍、一般的な森との比較で50倍もの価値があるとされています。どうせ改善するのであれば、価値あるものに投資したいと思ったのが一つ目の理由です。
二つ目は、もともとウニノミクスを立ち上げることになったきっかけと関連しています。2011年、日本では東日本大震災が起きました。津波の一年後、約70名程の東北の漁業関係者が、ノルウェーに視察に来ました。当時、僕はプライベートエクイティ(未公開企業や不動産に対して投資を行う投資ファンド)に勤めていたんですが、日本語もノルウェー語も話せる人材として、彼らを案内してくれないかと頼まれたんです。
そこで東北の漁師から「家や船をつくりなおすことはできる。でも、津波で捕食者が流されて、藻場がウニに食べつくされてしまった。漁業に戻りたくても、戻れない……」という深刻な悩みを聞いたんです。ノルウェーでは養殖技術が発展していますから、ノルウェーの特殊技術を使って、問題を解決できるんじゃないか。そう考えたのが、そもそもの始まりでした。
「略奪経済」から「回復経済」へ
松下 ウニノミクスが、海洋生態系を回復させる「社会課題の解決」と、利益をあげていく「商売」を両立できているのは、なぜなんでしょう?
武田 ここ20年程で、環境問題や社会課題に対する人々の捉え方が様変わりしましたよね。80年代の高度経済成長時代は、稼ぐのが一番でした。崩壊した日本経済を立て直すことこそが、ビジネスパーソンの働くモチベーションだったんです。ただ、日本経済がある程度成熟して、安心して暮らせる社会がつくられてくると、“儲け”だけを目指す企業は生き残れなくなった。もっと大事な目的が必要になったんです。
僕自身も、利益をあげることを当然重視していますが、やはり同時に「環境改善」や「社会貢献」が果たされる事業でなければ、意欲がわきません。“両立させる”というよりも、“一心同体”という感覚に近い。理想論かもしれませんが、「社会貢献」「環境改善」「利益」の3拍子が揃って初めて、21世紀型のビジネスになるのではないかと捉えています。
松下 別々に存在するものを両立していくのではなく、「社会貢献」「環境改善」「利益」の三つが一体になっているビジネスが、これからのスタンダードだと。
武田 そうですね。これまでの商売は、たとえば天然資源を取って付加価値をつけ、販売するスタイルでした。魚でも、木材でも、石油でも、ただ自然界にあるものを取っていた。それは、言葉を選ばずに言えば「略奪」です。
今は「略奪経済」から「回復経済」に変わっていく転換点だと、私は見ています。もはや地球は、これまでの略奪経済に「少し環境に良い」というメリットをプラスするだけでは持ちません。マイナスをゼロにするだけではなく、マイナスをプラスに持っていくような環境改善型のビジネスモデルが求められていると思います。
ミッションを掲げて、妥協せずにやろう
松下 「略奪経済」から「回復経済」へと変えていく上で、重要なポイントは何だと思われますか。
武田 トップが信念を持つこと。ミッションを掲げて妥協せずにやる。これに尽きると思います。
地球環境の改善に異論を唱える人はいないはずです。わざと地球を破壊しようなんて誰も思っていないでしょう。しかし結果的に環境が破壊されているのは、従来の社会や会社の仕組みがそういうシステムになっているから。だから「利益を上げながら、地球環境を改善していく手法がありますよ」と旗をあげると、賛同してくれる人がたくさんあらわれるんです。
ちなみにウニノミクスは、さまざまな業界の大手企業からバックアップを受けています。ENEOS株式会社も、そのうちの一社です。環境改善につながる事業、しかも非営利ではなく営利事業に投資をしたいということで声をかけてくれました。こんな小さな会社に、日本の名だたる大手企業が投資をしてくれる。それは我々が成し遂げたいミッションが明確で、ぶれずに行動しているからです。
大きな方針をつくり、最終的にたどり着きたいゴールが明確であれば、その考えに賛同してくれる人が集まってきます。磁石みたいに、合う人は引き寄せられ、合わない人は離れていく。お互いにとって無駄な時間がないんです。ビジネスモデルや具体的な手法は、マーケットの状況によって変わっていくものですが、掲げるミッションや方針は、ブレないほうがいい。
僕は合気道のコンセプトが好きです。相手の力をうまく取り入れて、自分の力にしていくことを心がけています。自分一人の力で成し遂げられることって、実は少ない。でもチームの力を結集したり、賛同してくれる企業や投資家の力を使いながらモメンタムをつくっていくことで、一人ではできないことを成し遂げられるのです。
松下 武田さんは、どのようにご自身の想いをチームメンバーに伝えているんですか。
武田 そうですね。先ほどのお話とも共通しますが、ミッションを掲げることは、組織運営においても有効です。入社の段階で、会社としての方向性や想いをメンバーは分かっていますし、何か物事を判断するときにも、「ミッションから外れていないか?」とみんなの意識が向くんです。
仮に僕自身が、ミッションから外れた行動をとったとしても「それは妥協してOKなライン?」「会社の哲学と違わない?」と社内から指摘が入ります。
とくに事業計画を立てるときには顕著ですよね。たとえば利益が出る投資案件だったとしても、環境改善につながるかどうかが不明確なのであれば、「たしかに利益は出るし、レストラン業界には喜んでもらえるかもしれないけど、我々のミッションからは外れるね。やめておこう」と言って、終わりです。スタッフも「そうだね」と賛同してくれます。
掲げているミッションのもと、お互いが同じ景色を目指せれば組織運営はシンプルになるし、取るべき行動も明確になります。その結果、思ってもいなかったようなスピードで成果が出たりするんです。
武田さんのお話を、サイル生はメモを取りながら真剣な表情で聞いていました。イマキミ授業レポート後編では、サイル生との質疑応答の様子をお届けいたします。
(デザイン:山本 香織、文:猪俣 奈央子)
この記事を書いた人
フリーライター
大学卒業後、転職メディアを運営するエン・ジャパン株式会社に入社し、中途採用広告のライター業に従事。最大20名のライターをマネジメントする管理職経験あり。2014年にフリーのインタビューライターとして独立。働き方・人材育成・マネジメント・組織開発・ダイバーシティ・女性の生き方・子育て・小児医療・ノンフィクションなどを得意ジャンルとしている。近年では著者に取材し、執筆協力を行うブックライターとしても活動中。
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