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元ミクシィCEO朝倉氏が高校生に語る「ファイナンス思考は誰もが学ぶ価値がある」~サイル学院高等部の授業レポート【第3回・前編】~

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2022年6月28日、サイル学院高等部の起業家・事業家による特別授業が開催されました。定期的に行われる特別授業、名称は「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ」。学校内では「イマキミ」と呼ばれています。

第3回目のゲストは、書籍『ファイナンス思考』の著者で、起業家と投資家の経験を持つ、シニフィアン株式会社共同代表の朝倉祐介さん。SNS事業の苦戦で業績不振に陥っていたミクシィを、社長就任後わずか1年で立て直し、時価総額を25倍にも押し上げた経歴でも知られています。

今回のイマキミでは、そんな朝倉さんから高校生に向けて、今年4月に上梓された書籍『ゼロからわかるファイナンス思考』をベースに、これからを生きる人たちに伝えたい“ファイナンス思考”について特別授業をしていただきました。前編では、その講義の内容や、朝倉さんと学院長松下との対談の様子をまとめてお届けします。

勉強や友達とのコミュニケーション、趣味や部活動など。日々一生懸命に過ごしている高校生のみなさんは、なかなか未来のことを考える時間はとれないかもしれません。「いまを生きている」みなさんが、少し先の未来に目を向けるために。ビジネスの先輩、人生の先輩でもあるゲストからさまざまなことを学び、自分の未来へ一歩踏み出す、行動するきっかけをつかんでほしい。「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ(通称イマキミ)」には、そんな思いが込められています。

過去のイマキミレポートを読む
第1回:グロービス学び放題事業責任者の鳥潟さんによる授業
第2回:ピープルポート株式会社代表の青山さんによる授業

今回のゲストは『ファイナンス思考』の著者、朝倉祐介さん

朝倉 祐介(あさくら ゆうすけ)さん

朝倉 祐介(あさくら ゆうすけ)さん

兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部に入学。在学中、ネイキッドテクノロジーを創業する。卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰し、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役(現任)。Tokyo Founders Fundパートナー(現任)。2017年、シニフィアン株式会社を設立し、スタートアップへのリスクマネー提供と経営支援に従事。

朝倉 高校生のみなさんは「ファイナンス」という言葉を聞いたことがありますか? まだ社会に出ていないみなさんには、あまり馴染みのない言葉かもしれません。ただ実は、会社で働いている人たちも、財務部などファイナンスを扱う部署以外の人は「ファイナンスなんて、自分には関係がない」と思っていたりします。

しかし、僕はすべてのビジネスパーソンにとって「ファイナンス思考は学ぶ価値のあるもの」だと考えています。

なぜなら、自分たちが参加しているゲームのルールだからです。

ファイナンスは資本主義の考え方そのもの。ファイナンスを知らずに会社で働いたり、経営したりするのは、サッカーの試合に例えると、自分が参加している大会のルールを知らずにプレーするようなものです。この大会はトーナメント戦なのか、リーグ戦なのか。今日の試合は延長があるのか、ないのか。基本的なルールを知らなければ、不安になりますよね。「教えてほしい」と思うはずです。

難しい理論や細かな知識を知らずとも、せめてファイナンスの基本的な仕組みについては知っておいたほうがいい。そこで今日は、ビジネスの基本的なルールである「会社の仕組み」について話します。

会社の仕組み

朝倉 そもそも会社って、どうやって出来るのでしょう? みなさんがパッと思い浮かぶ企業は、トヨタやソニー、Facebookなど、すでにこの社会に存在している会社だと思います。ですが、そのような会社も、誰かがつくらなければ、この世に誕生していないわけです。

会社がどのように生まれるのか。起業家が事業を興すためには、まずお金が必要です。そこで投資家と呼ばれる人たちが、会社をつくるためのお金を出します。

起業家は、集めたお金を元手に商品やサービスをつくり、販売します。販売すると「債権」というものが発生するんです。債権とは、商品を売って、お金をもらう権利のこと。

みなさんは、コンビニで買い物をするとき、商品を受け取るのと同時にお金を支払いますよね。ただ、企業間の取引において、商品を買うたびに、その都度お金を払っていたら大変です。手続きだけで膨大な時間がかかってしまいます。そこで、大体は1カ月分をまとめて支払います。後日、そのお金を請求できる権利が「債権」というわけです。

会社は、債権を回収してお金にし、そのお金を元手にさらに商品やサービスをつくっていきます。そして得た利益の一部を、最初に会社をつくるときにお金を出してくれた投資家に渡します。「自分たちを信じて、会社をつくるためのお金を出してくれてありがとう」と。

資本市場の仕組み

朝倉 投資家は、会社にお金を投資すると「株式」をもらえます。株式とは簡単にいうと、会社の所有権です。

この株式は、他の投資家に売ることができるんですね。「投資家Aから投資家Bへ」、「投資家Bから投資家C」へと、どんどん売っていける。投資家Aさんは、会社をつくるときにお金を出してくれましたが、投資家BさんやCさんは、会社と直接的な関わりはありません。しかし株式を持っている投資家Bさん、Cさんにも会社は、利益の一部を還元します。なぜでしょうか?

そもそも会社を立ち上げるときに、「投資家Aさんはなぜ、お金を出してくれたのか」。ここに立ち返って、考えてみましょう。

投資家Aさんは、株式の価値が上がって、誰かがより高い価格で買ってくれると思ったからこそ、最初にお金を出してくれたのです。

資本主義というのは、いわば「期待の連鎖」で出来ています。

みんなが「もしかしたら、株式の価値が上がるかもしれないぞ」と期待するからこそ、株式が売買されるんです。そもそも、その期待がなければ、会社をつくることさえできません。

冒頭で、「ファイナンスは財務部に所属している人だけではなく、すべてのビジネスパーソンに関係がある」とお話しました。その意図が少しイメージできたのではないかと思います。

ファイナンス思考の対極にある「PL脳」の問題点

ファイナンス思考の対極にある「PL脳」の問題点

朝倉 もう一つ、ファイナンス思考について知るために大切な考え方をお伝えします。私は、ファイナンス思考の対極にある思考形態として「PL脳」があると考えています。

PLとは、損益計算書と呼ばれるもの。A社の売上がどのくらい上がり、何にどれだけの費用を使って、いくら儲かったのかが書かれています。いわば、1年間の経営成績表です。

私が「PL脳」と呼んでいるのは、とにかく目先の売上や利益を最大化することに必死になり、それが目的化してしまう思考のこと。

目先のPLを良く見せることだけを考えていると、短期的な思考に陥ってしまい、未来に向けて価値のある大きな事業をつくれません。

たとえば、さまざまな研究をしたり、優秀な人材を採用したりすることが、未来のために必要な投資だったとしても、目先の支出が増えてしまうので、トライできなくなってしまう。未来に向けた投資をどれだけできるかが、3年後5年後の企業価値を決めると私は考えています。

ファイナンス思考を日常に取り入れるためには?

松下 朝倉さん、特別講義をありがとうございます。ファイナンス思考が、すべてのビジネスパーソンにとって知っておくべき考え方であることが分かりました。そもそも社会の大切なルールであるにもかかわらず、多くの人にファイナンス思考が浸透していないのは、なぜなんでしょうか。

朝倉 自分で会社をゼロから立ち上げた経験がないと、そのような発想が出てきにくいのだと思います。

会社に就職すると、「どうやって会社の価値を高めていきますか?」なんて問われません。全体の中でごく一部の役割を「あなたにはこの部分を任せますね」と手渡されるだけです。会社やビジネス全体を見て、未来に向けて何を投資し、どう価値を高めていくかを考える機会は、あまりないですよね。

みなさんが社会に出て、もしも会社に就職したとしたら、与えられた役割を全うすることはもちろん大切なのですが、「自分が社長だったら、この会社をどうしていくだろう?」と考えてみてほしいです。できる範囲で、思考のトレーニングを積み重ねていくことが大事なのかなと思います。

松下 ファイナンス思考というのは、もともと朝倉さんの中にあった概念なんですか?

朝倉 そうですね。ファイナンス思考という言葉を定義したのは数年前なのですが、もともと自分自身の中にあった考え方な気がします。昔はよく、野球に例えて「バッターボックスに立つ」と言っていたんです。

僕は、勝負をしてもいないのに諦めている状態が嫌いで。勝負をしてみて負けたのであれば仕方がないですし、失敗から学べることがたくさんあるからいいのですが…。「ちゃんと勝負しよう」というのは、「未来を見据えて投資しよう」というファイナンス思考に通じる考え方だと思います。

松下 ビジネスをしていない学生のみなさんも、日常の生活でファイナンス思考を身につけられるものでしょうか?

朝倉 日常生活でファイナンス思考を身につけるのは少し難しいかもしれませんが、「自分自身の価値を高めていくにはどうすればいいか?」を考えることはできるはずです。

今日参加してくださっているみなさんが、昔からある一般的な高校ではなく、サイル学院高等部に入学したのには、きっとそれぞれの動機があるでしょう。ビジネスの知識を積み上げていくことが、自分の5年後10年後に、よい影響があると考えたのかもしれません。それって、まさにファイナンス思考ですよね。

自分自身の価値を高めていくために、みなさんが使える資源は時間とお金です。資源が限られている中で、時間とお金を何に使うのが、最も自身の成長につながるのか、ぜひ考えてみてください


朝倉さんのお話を、サイル生は一生懸命に聞いていました。イマキミ授業レポート後編では、朝倉さんとサイル生の質疑応答の様子をお届けいたします。

(デザイン:山本 香織、文:猪俣 奈央子)

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この記事を書いた人

フリーライター
猪俣 奈央子 / Naoko Inomata
フリーライター

大学卒業後、転職メディアを運営するエン・ジャパン株式会社に入社し、中途採用広告のライター業に従事。最大20名のライターをマネジメントする管理職経験あり。2014年にフリーのインタビューライターとして独立。働き方・人材育成・マネジメント・組織開発・ダイバーシティ・女性の生き方・子育て・小児医療・ノンフィクションなどを得意ジャンルとしている。近年では著者に取材し、執筆協力を行うブックライターとしても活動中。