高校生がグロービス鳥潟氏に聞く「学びと生き方の話」~サイル学院高等部の授業レポート 【第1回・後編】~
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2022年5月9日、サイル学院高等部の起業家・事業家を招いた特別授業が開催されました。定期的に行われるイベント型授業、名称は「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ」。学校内では「イマキミ」と呼ばれています。
第1回目のゲストは、グロービス・デジタル・プラットフォーム マネジング・ディレクターの鳥潟幸志さん。グロービス経営大学院で講師を務め、GLOBIS 学び放題の事業責任者としてもご活躍されています。
“学びのプロ“である鳥潟さんに、生徒たちからは「ネガティブな感情とどう向き合えばいいか?」「ビジネスでもっとも重要なことは?」「チャレンジしたいときに一歩目を踏み出す方法」など、さまざまな質問が飛び出しました。
ビジネスの先輩、人生の先輩から直接話を聞き、自分自身の「やりたい・なりたい」姿を見つける貴重な機会。本記事はイマキミレポートの後編、鳥潟さんとサイル生の質疑応答をまとめてお届けします。
【イマキミレポート前編】鳥潟さんと学院長松下の対談記事はこちら
勉強や友達とのコミュニケーション、趣味や部活動など。日々一生懸命に過ごしている高校生のみなさんは、なかなか未来のことを考える時間はとれないかもしれません。「いまを生きている」みなさんが、少し先の未来に目を向けるために。ビジネスの先輩、人生の先輩でもあるゲストからさまざまなことを学び、自分の未来へ一歩踏み出す、行動するきっかけをつかんでほしい。「事業家からのメッセージ いまを生きる君たちへ(通称イマキミ)」のイベントには、そんな思いが込められています。
ゲストスピーカー
鳥潟 幸志(とりがた こうじ)さん
グロービス・デジタル・プラットフォーム マネジング・ディレクター。埼玉大学教育学部卒業。グロービス経営大学院経営学修士課程(英語MBA Program)終了。サイバーエージェントでインターネットマーケティングの法人営業として、企業のデジタルマーケティングの支援を経験したのち、PR会社のビルコム株式会社の創業に参画。取締役COOとして、経営全般に約10年間携わる。グロービスに参画後は小売・グローバルチームに所属し、コンサルタントとして国内外での研修設計支援に従事。のちに「GLOBIS 学び放題」の立ち上げを行う。現在は同事業の事業リーダーおよびデジタル・プラットフォーム部門のマネジング・ディレクターを務める。グロービス経営大学院ではベンチャー系プログラムの講師、科目責任者。企業研修ではクリティカル・シンキング、マーケティング、新規事業立案領域の講師を務める |
サイル生からの質問と鳥潟さんの回答
Q 学び続けるということは、新しい知識をインプットし続けることだと思います。でも、私は新しい知識が入ってきたときに、自分の今までの前提や考え方を覆されるのが苦手です。「自分の今までの考え方が間違いだったのかな?」と気づくことが怖いからです。新しいことを知ることへの恐怖心は、どうやったら克服できるでしょうか。
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鳥潟 とてもいい質問ですね。気持ちはよくわかります。自分の考え方を否定されるのは、やっぱり嫌ですよね。私も学生のころはそう思っていました。
今はどうしているのかというと、自分と違う意見を客観的に見るようにしています。
「この人はなぜ、自分にこういうことを言うんだろう?」「自分の考えと何が違うのかな?」と、まずは一歩離れたところから見る。冷静に受け止めてみることが大事です。
そのうえで、今度は自分がどうするかを考えます。自分が相手の意見に対してどう判断するか。受け入れるのか受け入れないのか。理由も含めて考えてみます。
そうすると、知識は広がるし、自分の価値観も知れるんです。これは自分にとってすごくいいと思います。
これからの長い人生、社会に出たときに必ず自分と違う価値観を持っている人に出会います。むしろそれが、普通のことです。まずは受け入れてみてから、判断する。一つ一つ誠実に向き合っていけばいいんじゃないかと思います。
Q 鳥潟さんは「職業の寿命がどんどん短くなっている」とおっしゃっていました。新しい仕事や技術を身につけるためには、どういうことを意識したり、行動したりすればいいでしょうか。
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鳥潟 新しい知識や技術を得られる環境を、自分で作るのが大事だと思います。
例えば新しい技術や知識を知っている人に会いに行く。知りたいことを聞けるような関係性を作っていく。情報サイトやSNS経由でもいいんですが、自分にとって有益だと思える情報を発信している人と、接点を持ち続けることです。そうすると、自然と情報が入ってくるようになります。
そもそも「どこにいい情報があるのかわからない」ということであれば、知っていそうな人に聞いてもいいです。どういう本やサイトを見ればいいか、どんな場所に行けばいいかなどを聞くと、教えてくれると思います。
そうやって集めた情報を、自分の中で1日1回でも、見続ける癖を付けることが大事です。日々インプットした情報が線になり、いつのまにか自分の中の変化に気付けます。
ですから、まずは環境を作ることから始めてみるのがいいですね。
Q 社会人になると「学びたくても学べない」状況があるとおっしゃっていましたが、今自分たちは高校生で、まだ時間的には余裕があります。もし鳥潟さんが自分たちと同じように「時間に余裕がある高校生」だったら、どのようなことを学びたいと思いますか。
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鳥潟 先ほどお伝えしたこととちょっと似ているんですが、何を学ぶかを決める前に、自分が何に興味があるのかをまず探ると思いますね。
興味があるテーマは、ひとつじゃなくてもいいんです。ただ、自分がどのテーマに興味があるのかを深堀りして考えて、いったん決めてみる。決めたら情報をとにかく集めまくるんです。
そしてみなさんのように時間に余裕があるとしたら、その道の第一人者、実践している人に会いに行きますね。
実は20代のころ、私はいろいろな人にメールを送っていました。本の著者の方は、“雲の上の人”のイメージがありますが、本の最後に書いてあるお問い合わせ先から連絡をすると、意外と返信をくださって。3人に1人くらいは、会ってくれたんですよね。
実際に会って話を聞くと、深い感銘を受けました。知識はもちろんですが、「こういう人がいるんだ」「こういう人生観で生きているんだ」というのが、自分にはとても響いたんです。
もちろん本の著者に会うだけでなく、自分の興味がある領域の現場に足を運んでみるのもいいと思います。
今、時間に余裕があって、自分の大事なことに時間を使えることは、とても素晴らしいことです。社会人になってからの一歩目が、他の方とは違うと思います。新しいことにどんどんチャレンジしていただくといいと思います。
Q 鳥潟さんは、「自分の感情や自分の興味を書き出してみるといい」とおっしゃっていました。実は、私もやっているんです。でも、うれしい感情は人の前で出せますが、ネガティブな感情はなかなか出すのが難しいと思っています。ネガティブな感情とどう付き合っていけばいいのか、鳥潟さんの考えを教えてください。
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鳥潟 ネガティブな感情は大切にしたほうがいいと思っています。自分がすごく嫌なこと、嫌いなこと、悔しいことというのは、絶対理由がありますよね。自分の中で「許せない」と感じる気持ちを深掘りしていくと、自分の価値観にたどり着きます。
そして、ネガティブな気持ちを人に伝えるかどうかは、正解はありません。時と場合で判断されるのがいいと思います。
例えば初対面の人に「これが嫌なんだよね」と言うと、やっぱりびっくりしますよね。ネガティブな言葉は、インパクトが強いですし、場の雰囲気を良くするものではないですから。これは社会人も一緒ですね。
ただ、信頼している人や、仕事をずっと一緒にやり続けたいと思っている人に、自分がどういう価値観の人間なのかを知ってもらう。そのために客観的に伝えるというのは、悪くないと思います。
Q まずやってみて気づいて、学んで。その繰り返しが大事だとお話を聞いてわかりました。ただ、まずやってみる一歩目が、なかなか積極的に踏み出せない人は多いと思うんです。僕もそうです。これまでも、やってみたいと思うけれど実際できないことがありました。一歩目を積極的に踏み出せる方法はありますか。
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鳥潟 そういうこと、ありますよね。挑戦したいと思っても、自分にとってリスクになることもある。例えば、事業をやって失敗すれば、お金も信用も失うこともあります。社会人でも、どんどん挑戦できる人もいれば、なかなか踏み出せない人もいると思います。
グロービス経営大学院でも、社会人の方から「会社員じゃなくて起業家になりたい。でも、怖くて一歩踏み出せない」という相談は実際にあるんです。
相談してきた方に私がおすすめしているのは、いきなり大きなチャレンジをするのではなく、小さな一歩を踏み出していくことです。
例えば起業したいのであれば、「まずは週末3時間だけ使って、やりたいことの事業計画書を作ってみてください。送っていただければ、フィードバックしますよ」と言います。いきなり起業じゃなくても、これが大事な一歩なんです。
実際に事業計画を作ってみると、やっぱりやりたいことだと思うかもしれないし、そうじゃないかもしれない。どちらにしても、自分の気持ちを発見できれば、前に進んでいますよね。
サイルの授業はプレゼンをする機会が多いと聞きました。例えば人前でプレゼンするのが苦手だという方がいたら、最初は1対1で、誰か安心できる方に聞いてもらうことからはじめるのもいいと思います。
誰かに聞かせるのが心配だったら、本を買って自分で勉強してみる。一人でやってみるでもいいです。何回か繰り返していくと、必ず変化はあります。
「小さく」でいいので、まずは一歩踏みだしてみてほしいです。
Q ビジネスを学ぶうえで、もっとも重要なことは何だと思いますか。
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鳥潟 ビジネスで一番大事なのは、お客様を大切にすること。お客様の課題を解決することに尽きると思います。
ビジネスを学ぶとき、市場や競合がどうだとか、お金がどうだとか、いろいろなエッセンスを学ばないといけません。でも、大事なのは「目の前のひとりが、喜んでいるか」なんです。
そういう意味では、人間を正しく理解することが重要です。たまに、1ユーザーとか、100人の塊、30代女性とかラベル付けをして、人としてお客様を見ていない人もいます。でも、それでは人の気持ちは動かないし、うまくはいかないんです。
自分たちが提供したいサービスは、どういう人に届けたら喜んでくれるのか。何に困っているのか。困りごとが生まれる理由は何なのか。このような「顧客インサイト」を、正しく見る手法を学んでほしいと思います。
Q 鳥潟さんがお話をしている記事を読み、「学び続けるための5つの視点」について知りました。詳しく教えてください。
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鳥潟 5つの視点というのは、何かを学ぼうと思ったとき、自分の中できちんと言語化しましょうという話です。
Whyは、なぜ学ぶのか。自分の中で理由を明確にしておくことが大切です。そうしないと、知識が入ってこないんですよね。
私は本を読む際、「なぜこの本を読み、何を学びたいのか」を1行書くようにしています。
たとえ読みたくない本だとしても、タイトルと目次を見て、なぜこれを読もうとしたかを書くんです。そうすると、書いたことに関係する内容は、頭に入ってきます。
次にWhatは、何を学ぶか。
自分でテーマを決めるのは、なかなか難しいと思うかもしれません。でも、自分が興味がある領域をいったん決めてみて、たくさんインプットしてみる。知識を深めてみるのをおすすめします。
本を読むだけが学びではなく、人に会いに行く、相談するでもいいです。生活の中のすべてが学びだと考え、その中からテーマを選びましょう。
Whenは、いつ学ぶか。人生の時間ってすごく貴重なんですよね。限られた時間なので、どう使うかを決めておかないと、なかなか学ぶのは難しいと思います。
私の場合は、9~18時の仕事以外では、通勤の移動中と寝る前、犬の散歩中など時間を決めて学んでいます。
みなさんもお忙しいとは思いますが、自分なりに「いつ」を決めて、積み重ねていくのが大事だと思います。
Whereは場所。時間を考えるとき、「どこで」というのも当然考えることですね。
私の場合、犬の散歩をしながらの1時間は、まさに「どこで」ですよね。歩きながらなので、音声でライトな内容を聞くようにしています。
そしてHowは、どうやって学ぶかですね。実は、自分の得意な学び方は、人それぞれ違うという面白いデータがあります。
文字を見るのが得意な人もいれば、音声からのほうが理解できる人もいる。体を動かしたほうが頭に入る人もいる。そんなふうに、特性は7~8個くらいに分かれている。ですから、自分に合った学び方を見つけるのも大切ですね。
鳥潟さんからサイル生へのメッセージ
鳥潟 みなさんのように、高校生からビジネスを学ぶという選択をされていること自体、本当に素晴らしいことだと思ってます。ぜひ自信を持って歩んでほしいと思います。
私はよく、「生きていく中でどこにベクトルを向けるか」の話をします。自分にベクトルが向いてる人と、外に向いてる人がいるんですよね。
自分に向いているというのは「自分が豊かになりたい」「お金持ちになりたい」「自分がやりたいことをやる」といったことです。
一方、外に向くというのは「誰かを助けたい」「社会をよくしたい」。もっと言うと、「自分たちが死んだ後の社会をより良くしたい」などの観点です。
お恥ずかしながら私自身は、20代の後半までは完全にベクトルが自分に向いていました。起業して会社を大きくして、上場して、金持ちになりたい一心でやっていたんです。
しかし、やっているうちに、まったくやりがいを見いだせなくなり、無気力な状態になってしまったんですよね。
そんな経験から、私はベクトルを外に向けようと決めて。いまは、日本の教育問題に対し、社会人の底上げをしていくことで解決しようとがんばっています。
ベクトルを外に向けて生きていこうと決めてから、人生は豊かになりました。
自分に向けるベクトルを完全に消すのは難しいと思います。ただ少しでもいいので、外にベクトルを向けて、世の中に貢献することをやっていただくと、豊かな人生になるんじゃないかと思います。
【イマキミレポート前編】鳥潟さんと学院長松下の対談記事はこちら
▲写真左から、サイル学院高等部学院長松下、グロービス鳥潟 幸志さん
鳥潟さん、ありがとうございました!
(撮影:植田 翔/デザイン:垰本 千代/編集:安住 久美子)
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この記事を書いた人
フリーライター
大学卒業後、転職メディアを運営するエン・ジャパン株式会社に入社し、中途採用広告のライター業に従事。最大20名のライターをマネジメントする管理職経験あり。2014年にフリーのインタビューライターとして独立。働き方・人材育成・マネジメント・組織開発・ダイバーシティ・女性の生き方・子育て・小児医療・ノンフィクションなどを得意ジャンルとしている。近年では著者に取材し、執筆協力を行うブックライターとしても活動中。
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